こんにちは。「classicfrontier」の「マコト」です。
旧車イベントや休日のパーキングエリアで、独特のオーラを放つ「ハコスカ」に遭遇したときの高揚感、車好きなら誰もが共感していただける瞬間ではないでしょうか。
特に、シルバーのボディに黒いオーバーフェンダー、そしてグリルに輝く赤色の「GT-R」バッジ。その姿を見るだけで、私たちは条件反射的に「伝説の名車だ!」と興奮してしまいます。
しかし、ここで少し冷静になって考えてみてください。あなたが目にしているそのハコスカ、本当に日産が1970年代に製造した「本物のGT-R」なのでしょうか?
実は、現在中古車市場やイベントで見かけるハコスカの相当数は、比較的入手しやすかった(といっても今は高価ですが)GTグレードやGT-Xグレードをベースに、外装やエンジンをGT-R仕様に改造した、いわゆる「R仕様(レプリカ)」なのです。

誤解しないでいただきたいのは、私は「R仕様」を否定しているわけでは全くないということです。当時の若者たちが憧れのGT-Rに少しでも近づけようと情熱を注いだカスタム文化は、日本の自動車史における素晴らしい1ページです。
ただ、問題なのは、購入を検討している方が「本物」と「仕様」の違いを明確に理解せず、あるいは悪意ある販売者によって混同させられ、適正ではない価格で取引してしまうリスクがあることです。本物と仕様では、資産価値に数千万円もの開きが出ることさえあります。
今回は、長年旧車に関わってきた私の経験と、現場のメカニックたちから仕入れたディープな情報を元に、カタログデータだけでは分からない「ハコスカGT-Rの真贋判定マニュアル」を完全版としてお届けします。
ボンネットを開けられない状況でも使える「目利き」の技術から、購入時の決定打となる車台番号の秘密まで、徹底的に解説していきますね。
一見しただけでは分からない、こんな疑問はありませんか?
- ✅ GT-R仕様(レプリカ)と本物の決定的な違いは?
- ✅ 4ドア(PGC10)にもGT-Rがあるって本当?
- ✅ エンジンルームを見ずに判別する方法は?
- ✅ サーフィンラインの有無だけで判断していい?
この記事を読めば、街で見かけるハコスカの『真の姿』が一目で見抜けるようになります。
外観で判別するハコスカGT-Rの見分け方
「本物かどうかなんて、エンジンを見れば一発でしょ?」と思われるかもしれません。確かにその通りなのですが、イベント会場や街中では、勝手にボンネットを開けるわけにはいきませんよね。
実は、日産のエンジニアたちがレースで勝利するために施した「機能優先の設計」は、外観の細部にこそ色濃く残っています。これらは単なるデザインではなく、速さを求めた必然の形状であり、だからこそ後付けの改造では再現しきれない「違和感」が生じやすいポイントなのです。まずは、車体に触れずに目視だけでチェックできるプロの観察眼を伝授します。
サーフィンラインの断絶とフェンダーの秘密
スカイライン(C10型)のデザインを語る上で欠かせないのが、ボディサイドをリアタイヤに向かって波のように流れるプレスライン、通称「サーフィンライン」です。
これはハコスカのアイデンティティであり、開発陣がこだわった美学の結晶でした。通常のGTやGT-Xグレードでは、このラインがリアフェンダーのアーチ上部を美しく跨いでいます。
しかし、レースに勝つことを宿命づけられたGT-R(特に2ドアハードトップのKPGC10)においては、この美しいラインが無惨にも断ち切られています。理由は極めて実践的で、レース用幅広タイヤ(ワイドスリックタイヤ)を装着するためです。
サーフィンラインを残したままでは、車高を下げて太いタイヤを履かせた際にフェンダーとタイヤが干渉してしまいます。そのため、GT-Rは工場出荷段階で物理的にフェンダーアーチを大きくカットし、むき出しになった切り口を隠すように、あの有名な黒いオーバーフェンダーをビス留めで装着しているのです。
ここで重要なのが、「最初からカットされている」のか、「後からカットした」のかという点です。多くの「R仕様」は、元々サーフィンラインがあったGTのフェンダーを、板金屋さんが後からカットしてオーバーフェンダーを取り付けています。外側からオーバーフェンダーが付いていれば見分けはつきにくいのですが、鋭いマニアはここを見逃しません。
もしオーナーさんの許可が得られたら、リアのタイヤハウスの内側、つまりフェンダーの裏側を覗き込んでみてください。本物のGT-Rはメーカーのライン生産で処理されているので、インナーパネルとアウターパネルの合わせ目(ツメの折り返しやスポット溶接)が非常に綺麗で規則的です。
一方で、後加工の仕様車の場合、切り口の鉄板が荒れていたり、錆止めのために厚いアンダーコート剤で不自然に塗り固められていることが多いんです。「見えないところの処理」にこそ、真実が隠れているものなんですよ。
また、4ドアセダンのGT-R(PGC10)に関しては、デビュー当初はリアのオーバーフェンダーが装着されていませんでした。つまり、4ドアに限っては「サーフィンラインが残っている=偽物」とは言い切れないのが難しいところです。
しかし、2ドア(KPGC10)においてサーフィンラインが繋がっているGT-Rは存在しません。もし2ドアでサーフィンラインがあり、GT-Rエンブレムが付いていたら、それは間違いなく「GT-Rルック」を楽しんでいるGTグレードということになります。
無色透明なガラスが示す本物の証
次に見るべきポイントは、意外かもしれませんが「窓ガラス」です。これは外装部品の中で最もコストがかかり、かつ「走り」には直接関係しない部分であるため、レプリカ製作時に見落とされがち、あるいは予算の都合で妥協されやすい箇所だからです。
結論から申し上げますと、本物のGT-Rに装着されているガラスは、フロント、サイド、リアを含めてすべて「無色透明(クリアガラス)」です。
これにはいくつかの理由が語られています。「レース中の視認性を極限まで高めるため」「少しでも軽量化するため」、あるいは「レースカーに快適装備は不要という硬派な思想」など諸説ありますが、事実として色はついていません。
- 本物(GT-R): 全てのガラスが完全な無色透明(白ガラス)。
- GT / GT-X系: グレードに応じて、高級感を演出するための「青色(ブルーボカシ)」や「ブロンズ色」の熱線吸収ガラスが採用されています。

判別方法は非常にシンプルです。白い紙(名刺やコピー用紙など)を用意して、ガラスの裏側から当ててみてください。もし、紙が青っぽく見えたり、茶色っぽく見えたりしたら、その車両はGT系のグレードである可能性が極めて高いと言えます。
もちろん、本物のGT-Rをレストアする過程で、部品が入手できずにGT用の色付きガラスを流用しているケースも稀に存在しますが、基本的には「クリアガラス=本物の証」と考えて良いでしょう。
また、ガラスの隅にある「JISマーク」やメーカーロゴ(ASAHIやNIPPON SAFETYなど)の刻印を確認するのも有効です。GT-R専用の品番とGT用の品番は異なります。さらに、リアガラスの「熱線(デフォッガー)」の有無もかつては重要な判断基準でした。
初期のGT-Rには軽量化のため熱線がありませんでしたが、GT系には標準装備されていることが多いのです。ただし、GT-Rでも寒冷地仕様や年式によっては熱線付きが存在するため、「熱線があるから偽物」と即断するのは危険です。あくまで「ガラスの色」を最優先の判断材料としてください。
高精巧なR仕様の外観的特徴と限界
ハコスカの人気が高まるにつれ、「R仕様」のクオリティも年々上がっています。かつてはエンブレムを変えただけの簡易的な仕様も多かったのですが、現在では「スーパーコピー」と呼ばれる、本物と並べても見分けがつかないレベルの車両が存在します。彼らはGT-R純正のオーバーフェンダーを型取りして装着し、バンパーやスポイラー、内装のメーターパネルに至るまで徹底的に作り込んでいます。
しかし、それでも再現しきれない、あるいは再現コストが見合わない「限界点」が存在します。その一つが「給油口」や「アンテナ」の位置です。例えば、本物のGT-R(KPGC10)にはラジオアンテナの設定が基本的にありません(オプション除く)。
しかし、GT系にはフェンダーやピラーにアンテナが装備されています。スムージング(穴埋め)して塗装すれば隠せますが、トランク内部から見るとアンテナホールの埋め跡が確認できることがあります。
また、リアガーニッシュやテールランプ周辺の造形も見逃せません。いわゆる「ワンテール(前期)」と「ツーテール(後期)」の違いは有名ですが、GT-RとGTではテールリムの質感や、ガーニッシュの塗装色が微妙に異なる場合があります。本物のGT-Rは、メッキの光沢を抑えたスパルタンな仕上げを好む傾向にあります。
ここで一度、市場における「仕様」のレベル分けを整理しておきましょう。これにより、目の前の車両がどの程度手を入れたものなのかを客観的に評価できます。
| レベル | 呼称 | 特徴 | 市場での評価 |
|---|---|---|---|
| Lv.1 | なんちゃってR仕様 | エンブレムのみ赤バッジに変更。サーフィンラインあり。L20エンジンノーマル。 | 手軽なカスタムとして認知。価格はGT相場。 |
| Lv.2 | 外観R仕様 | リアフェンダーカット済み。オーバーフェンダー、前後スポイラー装着。全塗装。 | 見た目の迫力は十分。最も流通量が多いタイプ。 |
| Lv.3 | フルコンプリート | 内装(バケットシート、100Lタンク風)、エンジン(L28改3.0L等)まで徹底再現。 | 「走る楽しみ」としては本物以上の場合も。高額取引される。 |
グリルやワイパーに見るレプリカの差異
「神は細部に宿る」と言いますが、ハコスカGT-Rの真贋もまた、細部にこそ現れます。フロントマスクの印象を決定づけるフロントグリル。KPGC10型GT-Rのグリルは、通称「ハニカムメッシュ」と呼ばれる金網状のデザインが採用されていますが、注目すべきはその「質感」です。
本物のGT-Rのグリルは、精悍な「つや消しブラック」で塗装されています。GTグレードに見られるような、煌びやかなメッキの縁取りや装飾は意図的に排除されています。
これはレース中の光の反射を防ぎ、後続車や対向車に威圧感を与える(あるいは不要な反射をさせない)ための機能的デザインです。レプリカの場合、GTのグリルを黒く塗っただけのものや、メッキ部分を残しているものが見受けられます。
そして、非常にマニアックですが決定的なのが「ワイパーブレード」です。
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本物のGT-Rのワイパーアームとブレードは、なんと純正で「黒色塗装(または黒色処理)」が施されています。当時の乗用車でワイパーが黒いというのは異例中の異例。これも、太陽光の反射(グレア)がドライバーの視界を妨げるのを防ぐための、純粋なレーシングスペックとしての配慮です。もし、ピカピカに輝くクロームメッキのワイパーが付いていたら、それはGT系からの流用か、オーナーの好みで交換されたものである可能性が高いでしょう。
さらに、フェンダーミラーの形状も異なります。GT-Rは空気抵抗を減らすために、より流線型の「砲弾型ミラー」が採用されています(年式やオプションにより異なる場合あり)。
四角いメッキミラーが付いている場合は、GT系の標準品である可能性を疑ってみてください。このように、外装の「光り物」を徹底的に排除し、黒く引き締めているのが本物のGT-Rの文法なのです。
S20エンジンと車台番号で真贋を見抜く
さて、ここからはいよいよ核心部分に迫ります。外観がいかに精巧に模倣されていても、ボンネットの下と、車体に刻まれたID(車台番号)には、絶対にごまかしの効かない「血統」が刻まれています。もし購入を本気で検討されているなら、ここからの情報は数千万円のリスク回避に直結する内容ですので、ぜひ熟読してください。
伝説のS20エンジンとL型の構造的違い
ハコスカGT-Rの存在意義の9割を占めると言っても過言ではないのが、名機「S20型エンジン」です。このエンジンは、かつてプリンス自動車が打倒ポルシェを掲げて開発した純レーシングマシン「R380」に搭載された「GR8型エンジン」をベースに、公道用に再設計されたものです。つまり、出自が乗用車用エンジンではなく、レーシングエンジンなのです。
ボンネットを開けた瞬間、その違いは歴然としています。
| 項目 | S20型エンジン (GT-R) | L20型エンジン (GT系) |
|---|---|---|
| カム構造 | DOHC 4バルブ (幅広で巨大なアルミ製ヘッドカバー) | SOHC 2バルブ (スリムなヘッドカバー) |
| 吸排気レイアウト | クロスフロー (右側から吸気、左側へ排気) | ターンフロー (左側に吸気と排気が集中) |
| 燃料供給装置 | ミクニ製ソレックス40PHH 3連装 (標準) | SUツインキャブ 等 (標準) |
| エキゾースト | ステンレス製 等長タコ足 (標準) | 鋳鉄製マニホールド (標準) |
最大の特徴は、エンジンのヘッドカバー(一番上の蓋)の幅です。S20はカムシャフトが2本あるDOHC(ダブル・オーバーヘッド・カムシャフト)構造のため、ヘッド幅が非常に広く、エンジンルームいっぱいに鎮座しているような迫力があります。
一方、GT系に搭載されるL型エンジン(L20やL28)はSOHC(シングルカム)のため、ヘッドは細長くスリムです。L型も「Lメカ」と呼ばれるチューニングで速くなりますが、構造的な造形美という点ではS20の複雑さには及びません。
また、音質も全く異なります。S20は複雑なギアトレインやチェーン駆動を採用しているため、アイドリング時には「ガチャガチャ」という賑やかなメカニカルノイズを発します。
しかしアクセルを踏み込むと、その雑音が一点に収束し、7000回転を超えて突き抜けるような「高周波の和音(甲高い咆哮)」へと変化します。これはL型の野太い低音サウンドとは明確に異なる、S20だけの特権です。
ちなみに、この至宝S20エンジンは、同時期に販売された「フェアレディZ432」にも搭載されています。同じ心臓を持ちながら全く異なる性格を持つZ432については、以下の記事で詳しく解説していますので、エンジンのメカニズムにもっと興味がある方はぜひ併せてご覧ください。
Z432の意味は「4・3・2」の暗号。GT-Rと同じ心臓を持つ伝説の狼を徹底解説
車台番号のPとKPが示す決定的な意味
エンジンがS20であれば本物か?というと、実はそうとも言い切れません。非常に稀なケースですが、本物のGT-Rからエンジンだけを下ろし、GTのボディに移植した「エンジンスワップ車」が存在するからです。ボディそのものが本物かどうかを証明する唯一にして最強の証拠、それが「車台番号(VIN)」です。
エンジンルームの奥、バルクヘッド(室内との隔壁)に打刻されている番号を確認してください。日産の型式コードには明確なルールがあります。
- PGC10-xxxxxx: 4ドアセダン GT-R
- KPGC10-xxxxxx: 2ドアハードトップ GT-R
- GC10 / KGC10: L型エンジン搭載のGT / GT-X
ここで絶対に見逃してはならないのが、「P」の文字です。このPは、旧プリンス(Prince)の頭文字に由来するとも、パフォーマンスのPとも言われていますが、いずれにせよGT-Rのボディには必ずこの「P」が含まれています。

もし車台番号が「KGC10」で始まっているのにS20エンジンが載っているなら、それは「GT-R仕様の公認改造車」であり、オリジナルではありません。
この一文字があるかないかで、車両の歴史的価値と市場価格は天と地ほど変わります。「本物」として買うのであれば、車検証と実車の打刻が「PGC10」または「KPGC10」であることを必ず確認しなければなりません。
移植や偽造を見破る車台番号の打刻確認
ここからは少し怖い話をします。市場価値の高騰に伴い、「偽造」の手口も悪質化しています。その代表例が「ニコイチ」と呼ばれる手法です。
例えば、事故で大破し、再起不能になった本物のGT-R(書類あり)から、車台番号が打刻されたバルクヘッドの鉄板部分だけを切り取ります。そして、程度の良いGT(KGC10)のボディから同じ部分を切り取り、そこへ本物の打刻板を溶接して移植するのです。
こうすれば、見た目はGT改、中身はL型だったとしても、書類上は「本物のGT-R」として登録できてしまう恐れがあります(現在は車検制度が厳格化されており困難ですが、過去に作られた個体が流通しているリスクはあります)。
これを見破るには、打刻周辺の塗装肌を徹底的に観察するしかありません。打刻のあるパネルの周辺だけ塗装が新しかったり、不自然なパテの盛り上がり、あるいは溶接ビード(盛り上がり)を削ったような痕跡がないか、指でなぞって確認してください。
また、青いIDプレート(コーションプレート)を留めているリベットにも注目です。日産純正のリベットは特殊な形状をしていますが、一度剥がして打ち直したものは汎用のリベットになっていることがあります。「怪しいな」と思ったら、信頼できる専門ショップの鑑定を仰ぐことを強くお勧めします。
100Lタンクの本物とリプロ品の差異
GT-RをGT-Rたらしめるもう一つの専用装備、それがトランクを占拠する「100リットル燃料タンク」です。耐久レースにおいて、給油のためのピットイン回数を減らすことは勝利への近道です。そのために、居住性や積載性を完全に無視して搭載されたのがこの巨大なタンクです。
しかし、最近ではレストアパーツとして「GT-R風 100Lタンク(リプロ品)」が販売されており、GTグレードにこれを装着して雰囲気を楽しむカスタムが流行しています。つまり、「タンクが大きいから本物」という図式はもはや成立しません。
本物とリプロを見分けるポイントは、配管とフロアの加工です。本物のGT-Rは、100Lタンクからの太い燃料配管を通すために、トランクフロアや室内のフロアパネル形状自体がGTとは異なっています。また、タンクを固定するバンドの位置やステーの形状も専用設計です。
後付けのリプロ品の場合、GT用の細い燃料配管に変換アダプターを噛ませて接続していたり、フロアを叩いて無理やり収めている痕跡が見られることがあります。トランクを開けて「おっ、100リッターだ!」と喜ぶ前に、タンクの下のフロア形状や配管の取り回しまでチェックするのがプロの視点です。
4ドアと2ドアの難易度と市場価値
一般的に「ハコスカGT-R」と言うと、2ドアハードトップ(KPGC10)をイメージする方が多いでしょう。しかし、歴史を紐解けば、1969年に最初にデビューし、レースでの連勝記録の礎を築いたのは4ドアセダン(PGC10)でした。この2つのボディタイプには、見分け方の難易度において大きな差があります。
4ドアGT-Rの本物を見分ける難所
4ドアGT-R(PGC10)は、マニアの間では「羊の皮を被った狼」というキャッチコピーを最も体現しているモデルとして崇拝されています。なぜなら、外観が驚くほど「普通のセダン」だからです。

2ドアGT-Rの象徴であるリアのオーバーフェンダーは、4ドアには標準装備されていません(レース車両を除く)。サーフィンラインも綺麗に残っています。
つまり、外観だけで「GT」と「GT-R」を識別する決定的な違いが、エンブレム以外にほとんど存在しないのです。ホイールベースが2ドアより長いなどの特徴はありますが、単体で見ても気づきにくいでしょう。
そのため、4ドアGT-Rの真贋判定は、2ドア以上に「車台番号(PGC10)」と「エンジン(S20)」の確認に依存することになります。逆に言えば、4ドアで本物のGT-Rに乗っているオーナーは、派手な見た目ではなく、その歴史的背景と中身に惚れ込んだ、真の通人であると言えるかもしれません。
2ドアに見るフェンダーカットの真実
一方、1970年に登場した2ドアハードトップ(KPGC10)は、レースでの旋回性能を向上させるためにホイールベースを70mm短縮し、トレッドを広げた「戦闘機」です。その結果として生まれたのが、前述したリアフェンダーのカットとオーバーフェンダーの装着です。
この「フェンダーカット」の形状には、工場のプレス機による量産加工ならではの滑らかさがあります。対して、後からジグソーやサンダーで切った板金加工の断面は、どうしても手作業の揺らぎが出ます。
タイヤを外してフェンダーアーチの裏側を指でなぞったとき、均一で滑らかな折り返し処理がされていれば本物、鋭利だったり凸凹していれば後加工の可能性が高いです。非常にマニアックな触診ですが、これこそが確実な判別法の一つです。
本物とレプリカで大きく異なる資産価値
最後に、避けては通れない「お金」の話をしましょう。ハコスカGT-Rの価格は、世界的な旧車ブームと投機需要により、近年異常なほどの高騰を見せています。本物と仕様の価格差は広がる一方です。
| 車種・仕様 | 推定市場相場 (参考) | 特徴と価値の源泉 |
|---|---|---|
| 本物 (KPGC10/PGC10) | 2,000万円〜5,000万円超 | 文化遺産としての価値。フルレストア済みや、未再生原形車(ノンレストア)は特に高評価。海外オークションではさらに高値も。 |
| フルコンプリート仕様 | 1,000万円〜1,500万円 | 本物のGT-Rと同等の外観に加え、L28改3.0Lメカチューンなど、S20を凌ぐ走行性能を持つ個体。「走り」の価値。 |
| 外観R仕様 (Lv.2程度) | 600万円〜1,000万円 | 見た目はGT-RだがエンジンはL20ノーマル等。雰囲気重視。エントリー層に人気だが、価格上昇中。 |
かつては「R仕様」も安価で楽しめる存在でしたが、ベースとなるGTグレード自体の価格が上がっているため、今では仕様車でも1000万円近くすることが珍しくありません。
しかし、それでも本物との間には倍以上の価格差、資産価値の壁が存在します。投資目的であれば間違いなく本物を、気兼ねなく走り回りたいなら仕様を、という選び方が賢明でしょう。
ハコスカGT-Rの見分け方に関するよくある質問
ここでは、実際にこれからハコスカを購入しようとしている方や、イベントでオーナーと話す際に失礼のないようにしたい方からよく頂く質問にお答えします。
Q. エンジン音だけで本物かどうかわかる?
A. ある程度はわかります。
S20エンジンはアイドリングでチェーンやギアが奏でる「ガチャガチャ」というメカニカルノイズが大きく、回転を上げると「クオォーン」という高周波の乾いた音になります。対してL型は「ドロドロ」「ボオォー」という野太い低音が特徴です。ただし、フルチューンのL型に等長タコ足を入れると、S20に近い高音が出ることもあるので、音だけで断定するのは早計です。
Q. 「R仕様」を買うのは恥ずかしいこと?
A. 全く恥ずかしいことではありません!
むしろ誇って良い文化です。当時の若者も皆、憧れのGT-Rに近づけようとエンブレムを変えたりフェンダーを切ったりしてカスタムを楽しんでいました。「羊の皮を被った狼」に憧れる気持ちこそがスカイライン愛の原点です。ただし、「本物です」と偽って売られている個体を高値で掴まされるのだけは絶対に避けてください。
Q. 本物のGT-Rにエアコンは付けられる?
A. 物理的には可能で、最近は旧車専用の電動エアコンキットなども存在します。
しかし、S20のエンジンルームは巨大なエンジンと3連キャブで隙間がなく、熱害も深刻です。コンプレッサーを回すことで貴重なパワーも食われますし、オーバーヒートのリスクが格段に上がります。「夏は乗らない」「三角窓からの風を楽しむ」というストイックなオーナーが多いのが現実ですね。
最終結論としてのハコスカGT-Rの見分け方

ここまで、外観の微細な違いからエンジンの構造、車台番号の秘密まで、様々な角度からハコスカGT-Rの真贋検証を行ってきました。情報量が多かったと思いますので、最後に「これだけは絶対に覚えておいてほしい」という最重要ポイントをまとめます。
- 車台番号の「P」が絶対正義: どれほど見た目がGT-Rでも、車検証の型式が「PGC10」か「KPGC10」でなければ、それはカタログモデルのGT-Rではありません。
- ガラスの色を見る: 最も手軽かつ強力な判別法。無色透明(白ガラス)なら本物の可能性大。青や茶色のガラスならGT系の疑いが濃厚です。
- リアフェンダーの処理(2ドア): 最初からプレスラインでカットされているのが本物。後加工の痕跡や厚塗りのアンダーコートには要注意。
- S20エンジンの迫力: DOHCの巨大なヘッドカバーと3連ソレックスの造形美は、L型とは別次元。ただしスワップの可能性もゼロではないので車台番号とセットで確認を。
本物のGT-Rには、日本のモータースポーツ史を変えた歴史の重みと、レースで勝つために快適性を切り捨てた機能美が宿っています。そのオーラは、やはり特別なものです。一方で、先人たちの憧れが詰まったR仕様にも、また別の愛すべき物語と情熱があります。
あなたが探しているのが資産としての「本物」なのか、それとも自分色に染めて走りを楽しむための「相棒」なのか。この記事が、あなたの理想の一台と巡り会うための確かな道しるべになれば幸いです。
どちらも間違いなく、世界に誇るべき「愛のスカイライン」です。あなたの最高の旧車ライフが始まることを、心から応援しています。
※記事中のスペックや歴史的背景の一部は、日産ヘリテージコレクション(出典:日産自動車株式会社)の公式情報を参照しています。