こんにちは。「classicfrontier」の「マコト」です。
今回は、日本の旧車界における永遠のスター、フェアレディZについてお話しします。特に、多くのファンが一度は頭を悩ませる「S30」と「S31」の違いについて、技術的な背景や歴史的な意味も含めて、かなりマニアックな視点で掘り下げていこうと思います。
「見た目は同じなのに、型式が違うのはなぜ?」「結局、どちらを買うのが正解なの?」という疑問、ありますよね。
市場では一括りに「初代Z」として扱われることもありますが、実はこの二台の間には、単なるモデルチェンジ以上の、エンジニアたちの苦闘と技術のドラマが隠されているんです。
これから旧車Zの世界に足を踏み入れようとしている方や、購入を検討している方にとって、この「違い」を知ることは、自分に合った一台を見つけるための最初の一歩になるはずです。
あなたは今、こんなことで悩んでいませんか?
- ✅ S30とS31、外見は似ているけれど中身の具体的な違いがよくわからない
- ✅ 「S31は遅い」「牙を抜かれた」という噂を聞いて、購入を躊躇している
- ✅ キャブレター車とインジェクション(EGI)車、維持するならどっちが楽なのか知りたい
- ✅ レストアを考えているが、パーツの互換性がどれくらいあるのか不安だ
もし一つでも当てはまったなら、この記事があなたの疑問をすべて解決します。
技術的視点で見るフェアレディZのS30とS31の違い
まずは、エンジニアリングの観点から両車の決定的な違いを見ていきましょう。S30からS31への変化は、単なる装備の追加やデザインの変更ではありません。それは1970年代という激動の時代背景が生んだ、「自動車工学のパラダイムシフト」そのものなのです。
年式による型式変更と排ガス規制の歴史

一般的に「初代フェアレディZ」として一括りにされがちですが、その歴史は大きく「排ガス規制」によって分断されています。「フェアレディz S30 S31 違い」と検索する方の多くが気にするポイントですが、その明確な境界線は1976年(昭和51年)にあります。
1969年のデビューから1975年中盤までのモデルがいわゆる「S30型」。そして、世界的に厳格化した環境規制に対応するために大幅な改良が加えられたのが、1976年以降の「S31型」です。
しかし、実はその間にはあまり知られていない「A-S30」という過渡期モデルも存在しており、歴史をより複雑で面白いものにしています。
初代フェアレディZ全体の公式な概要や主要スペックについては、 日産公式ヘリテージコレクションのフェアレディZ解説 も参考になります。
3つのフェーズで理解するZの変遷
この時代のZを理解するには、以下の3つのフェーズに分けて考えるのがベストです。
| フェーズ | 型式・時期 | 特徴・排ガス対策 |
|---|---|---|
| 第1期 | S30 (1969年〜1975年中頃) | キャブレター仕様(前期・中期) 規制の影響がまだ少なく、点火時期調整などの簡易的な対策のみ。エンジンの「素」の良さを最も楽しめる時期。 |
| 第2期 | A-S30 (1975年秋頃〜1976年前半) | 50年規制適合(過渡期) ボディはS30のままだが、SUキャブを廃止し、L20E(EGI)と酸化触媒を導入。NAPSシステムの初期形態を搭載。 |
| 第3期 | C-S31 (1976年後半〜1978年頃) | 51年規制適合(後期・S31) より厳しい51年規制に対応するため、EGR(排気ガス還流)等を追加。ボディ構造やフロア形状も刷新され、型式が「S31」へと変更。 |
このように、S30からS31への変化は、ある日突然起きたものではありません。当時の技術者たちが「マスキー法」に端を発する世界的な環境規制の波に対し、キャブレターから電子制御インジェクションへ、そして無規制から本格的な排ガス浄化システム(NAPS)へという、生き残りをかけた技術革新のプロセスそのものなのです。
特に「A-S30」は、わずか1年足らずしか生産されなかったレアな存在ですが、キャブからインジェクションへの移行を象徴する重要なモデルです。市場ではこれら全てが「S30Z」と呼ばれますが、中身は全く別の技術思想で作られていることを理解しておきましょう。
エンジンスペックと馬力に見る出力特性
カタログ上の数値だけを見比べると、S30(L20型)もS31(L20E型)も、最高出力は130ps/6000rpm、最大トルクは17kgm前後と、大きな馬力差はありません。数字のマジックとも言えますが、実際にステアリングを握りアクセルを踏み込んだ時のフィーリングは、全くの別物と言っていいでしょう。
S30(SUツインキャブ):感性に訴えるアナログな刺激
S30に搭載されたL20型エンジンは、SUツインキャブレターを採用しています。このシステムの特徴は、アクセル操作に対してピストンが機械的に連動し、空気を吸い込む音がダイレクトにドライバーに届く点です。
「クォーッ」という独特の吸気音と共に、回転数が上がるにつれてパワーが二次曲線的に盛り上がっていくドラマチックな特性は、まさにスポーツカーの醍醐味です。
しかし、その反面、気難しいところもあります。気温や湿度の変化、標高の高い場所へ行くと空燃比がズレて調子を崩したり、冷間時の始動にはチョーク操作のコツが必要だったりと、ドライバーが機械のご機嫌を伺いながら走らせる必要があります。これを「対話」と捉えて楽しめるかどうかが、S30所有の鍵になります。
S31(L20Eインジェクション):理詰めで制御されたGT性能
対してS31のL20Eエンジンは、電子制御燃料噴射装置(ニッサンEGI)を採用しています。これはボッシュ社のエアフローメーター式EFIをベースにした日産独自のEGIシステムで、吸入空気量をエアフローメーターで計測し、コンピューターが最適な燃料噴射量を計算します。
この恩恵は絶大です。真冬の早朝でもキーを捻るだけで一発始動し、アイドリングはピタリと安定。低回転域からトルクがフラットに出るため、渋滞や街乗りでの発進停止が苦になりません。街乗りでの扱いやすさが格段に向上し、誰が乗っても速く、快適に走れる車に仕上がっています。
一方で、エアフローメーターの吸気抵抗や電子制御による補正が入る分、S30のような「鋭いツキ」や「荒々しいレスポンス」は影を潜め、「角が取れた」「マイルドになった」と評されることもあります。
しかしこれは、どんな状況でも安定して走れる「グランドツーリングカー(GT)」としての資質を手に入れた証拠とも言えるのです。
キャブからインジェクションへの燃費の変化

旧車選びにおいて燃費を気にするのは野暮かもしれませんが、現実問題としてツーリングの航続距離やランニングコストに関わる重要な要素です。一般的に、機械式に燃料を吹くS30のキャブレターよりも、コンピューター制御で精密に燃料を噴射するS31のインジェクション(EGI)の方が、燃費性能は優秀な傾向にあります。
構造的な燃費差の理由
S30のキャブレターは、アクセル開度やエンジンの負圧に応じて物理的にガソリンを吸い出します。セッティングがバッチリ決まっていれば良いのですが、多くの場合は安全マージンとして「濃いめ」の状態になりがちで、未燃焼ガスとして排出される無駄も多いのが実情です。
一方、S31のEGIは、エアフローメーターや水温センサーなどからの情報を元に、常に狙った空燃比に近づけるよう燃料噴射量をミリ秒単位で制御します。特に、負荷の少ない巡航時には噴射量を絞り込めるため、無駄なガソリン消費が抑えられます。
もちろん、40年以上前の技術であり、さらに年式やチューニング、走り方によって実燃費は大きく変わりますが、ノーマルに近い個体で街乗り中心のケースだと、おおよそ次のようなイメージです。
| 項目 | S30(キャブ) | S31(EGI) |
|---|---|---|
| 燃料制御方式 | アナログ(吸入負圧依存・機械式) | デジタル(各種センサー・ECU制御) |
| 環境対応力 | 気温・気圧・湿度に大きく左右される | 補正機能により季節・場所を問わず安定 |
| 実燃費イメージ (街乗り) | 5km/L 〜 7km/L (セッティングや調子で大きく変動) | 7km/L 〜 9km/L (比較的安定している) |
もちろん、40年以上前の技術ですから現代のエコカーとは比較になりませんが、S31のシステムは、長距離ツーリングでの給油回数を減らし、ガス欠の不安からドライバーを解放してくれます。「週末のドライブで余計な心配をしたくない」という方には、S31のインジェクションシステムは心強い味方になるでしょう。
昭和51年規制とNAPS技術の導入背景
S31を語る上で絶対に避けて通れないのが、「NAPS(Nissan Anti-Pollution System)」の存在です。これは、1970年代に深刻な社会問題となっていた光化学スモッグや大気汚染に対応するため、日産が全社を挙げて開発した排ガス浄化システムの総称です。
エンジニアたちの苦闘の痕跡
昭和50年・51年の排出ガス規制は、当時「世界で最も厳しい規制」と言われ、多くのスポーツカーが生産中止に追い込まれました。そんな中、日産の技術者たちはフェアレディZを存続させるために、あらゆる技術を投入しました。

S31のエンジンルームを覗くと、S30には無かった複雑なバキュームホースの配管や、巨大なキャニスター、EGRバルブなどが所狭しと並んでいます。これらは、CO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、NOx(窒素酸化物)を低減させるための装置です。

- 酸化触媒:排気ガス中の有害物質を化学反応で無害な水や二酸化炭素に変える装置。床下に設置され、高温になるため遮熱対策が必要でした。
- EGR(排気ガス再循環):排気ガスの一部を吸気側に戻し、燃焼温度を下げることでNOxの発生を抑えるシステム。50年規制対応の世代から採用が始まり、51年規制に対応したS31では広く使われるようになりました。
当時、これらNAPSの搭載によって「出力が落ちた」「レスポンスが悪化した」と嘆かれ、「牙を抜かれたZ」と揶揄されることもありました。しかし、私はこの複雑怪奇なエンジンルームを見るたびに、「Zを絶滅させない」という当時のエンジニアたちの執念を感じずにはいられません。
もしS31が排ガス規制をクリアできなければ、フェアレディZの系譜はそこで途絶えていたかもしれません。この技術があったからこそ、Zの歴史は途切れることなく現代のZ34やRZ34へと繋がっているのです。そう考えると、S31のメカニズムは「自動車史における勲章」のように見えてきませんか?
外観と内装に現れたエンジニアの苦闘と進化
次は、目に見える部分の変化について解説します。一見すると同じ美しいロングノーズ・ショートデッキのシルエットですが、S31には時代の要請に応じた安全対策や、GTカーとしての快適性を高めるための進化が数多く刻まれています。
バンパーやテールランプ等の外観の見分け方
街中やイベント会場でZを見かけた際、それがS30なのかS31なのかを瞬時に見分けるポイントがいくつかあります。これを知っているだけで、旧車鑑賞が何倍も楽しくなるはずです。
バンパーとオーバーライダー
最もわかりやすい識別点はバンパー周りです。S30の初期型は、シンプルで細身のメッキバンパーが装着されており、軽快な印象を与えます。しかし、S31(特に後期)になると、厳しくなった安全基準への適合から、バンパーに黒いゴム製の大型「オーバーライダー」が装着される仕様が増えます。これにより、全長がわずかに伸び、視覚的にも重厚でマッシブな顔つきになっています。
フェンダーミラーの進化
ミラーも時代を映す鏡です。S30は砲弾型のメッキミラーや樹脂ミラーが基本ですが、S31の上級グレード(Z-Tなど)には、角型の樹脂製ハウジングを持つ「リモコンフェンダーミラー」が採用されました。これはワイヤーや電気を使って車内から鏡面の角度を調整できるハイテク装備です。デザイン的には好みが分かれるところですが、当時の「未来感」を象徴するアイテムと言えます。
リア周りのディテール
テールランプ自体の意匠は前期・後期で大きな変更はありませんが、周辺の機能部品に違いがあります。
- 熱線(デフォッガー):リアガラスの熱線プリントパターンが、年式によって縦線だったり横線だったりと変化します。S31では熱線入りが標準化されています。
- リアゲートダンパー:S30前期では片側1本支持でしたが、ゲートの歪み防止や保持力向上のため、後期〜S31では左右2本支持に変更されています。
ボディ剛性強化に伴う車両重量の増加要因
「S31は重い」というのは、多くのZファンが口にする定説ですが、これにはポジティブな理由も含まれています。S31では、排ガス対策機器の重量増だけでなく、衝突安全性の向上やボディ剛性の確保を目的に、フレームレベルでの大掛かりな補強が行われているのです。
どこが重くなったのか?
S30初期型と比較すると、カタログ値で約100kg〜150kgほどの重量増となっています。これは大人2名が常に乗車しているのと同じ計算になります。具体的な重量増の要因としては以下が挙げられます。
- サイドインパクトビームの追加:側面衝突時の乗員保護のため、ドア内部に強固な補強バーが追加されました。
- フロアパネルの厚み変更と補強:触媒の熱対策や剛性アップのため、床下の鉄板構成が見直されています。
- バンパー構造の強化:衝撃吸収機能を持たせるため、バンパーマウントが複雑化し重量が増しました。
確かに、この重量増によってS30初期型のような「ヒラヒラと舞うような軽快感」は削がれてしまいました。しかし、その分、高速道路での直進安定性や、コーナーでのボディの「しっかり感」はS31の方が明らかに優れています。現代の交通事情の中で、長距離を安心してドライブを楽しめるのは、実は剛性の高いS31の方かもしれません。
内装デザインの変更と快適装備の充実

ドアを開けて運転席に座ると、S31の内装が、スパルタンな「スポーツカー」から、快適な「ラグジュアリーGT」へと進化していることに気づきます。S30のコクピットも魅力的ですが、S31はよりドライバーに優しい空間になっています。
メーターとインパネの変更
ドライバーの目の前にあるメーター類も進化しています。スピードメーターやタコメーターのフォントデザインが変更され、視認性が向上しました。
また、EGI+触媒を備えた後期型(A-S30〜S31)の大きな特徴として、インパネ内に「排気温度警告灯(EXH TEMP)」などの排ガス対策車特有の警告灯が追加されています。これは触媒が異常過熱した際にドライバーに知らせるためのもので、S30初期には存在しなかった装備です。
快適装備の近代化
S31の上級グレードでは、パワーウインドウや集中ドアロックといった現代的な装備も設定されました。ドアの内張りに手巻きハンドルがなく、アームレストにスイッチが埋め込まれているのが特徴です。
さらに重要なのが空調システムです。S30時代は「吊り下げ式クーラー」がオプションで一般的でしたが、S31ではヒーターとクーラーの機能が統合された「エアコン」システムの搭載を前提としたダッシュボード設計になっています。
操作パネルもレバー式で使いやすく、効きも向上しているため、夏場の快適性はS30とは比べ物になりません。「旧車でも汗だくにならずにデートしたい」という方には、S31の内装は非常に魅力的でしょう。
マフラーレイアウトとフロア形状の違い
ここはリフトアップして下回りを覗き込まないとわからない、かなりマニアックなポイントですが、カスタムや修理をする上では非常に重要です。S30とS31では、フロアトンネル(車体中央の盛り上がり)の形状が年式によって変化しています。
S31は、非常に高温になる排ガス浄化装置「酸化触媒コンバーター」を床下に収める必要があります。
そのため、助手席側のフロアトンネルの一部が大きく隆起していたり、遮熱板(ヒートシールド)を取り付けるためのスタッドボルトが多数溶接されていたりと、S30初期にはない構造物が存在します。
このフロアの見直し自体は、50年規制対応が見えてきた1970年代中盤のタイミングから始まっており、その流れの延長線上にS31のレイアウトがあると考えると分かりやすいでしょう。

この影響を強く受けるのがマフラーの交換です。排気管の取り回しルートが年式によって微妙に異なるため、社外マフラーを購入する際は、メーカーの適合表で「対応年式・対応型式」を必ず確認してください。
「形が似ているから付くだろう」と思って別年式用を買うと、フロアやデフに干渉してそのままでは装着できない…という悲劇が起こりがちです。
メンテナンスとレストアに必要な互換性知識
最後に、実際に所有するオーナー目線で、パーツの互換性や市場価値、そして維持の現実について触れておきます。S30とS31は兄弟車ですが、「ボルトオンで付く部品」と「加工しないと付かない部品」が混在しており、この知識がないとレストアで思わぬ出費を強いられることになります。
シートレール等のパーツ互換性と流用可否
特に注意が必要なのが、シートや内装部品のパーツ互換性です。先述の通り年式によってフロア形状に違いがあるため、シートを固定する「シートレール」はS30/S31共通で使えるものもあれば、年式専用品が必要なものもあります。基本的には「自分の年式・型式に合ったレールを選ぶ」のが安全です。
互換性の落とし穴:ここだけは注意!
- シートレール:前期・中期・後期(S31)で取り付け穴の位置や高さが異なる場合があります。基本的には年式・型式専用品を用意してください。他年式の流用を行う場合は、干渉回避や座面位置調整のために加工が必要になるケースも多いです。
- コンソールボックス:S30にはチョークノブがありますが、S31にはありません。逆にS31にはミラースイッチなどがあります。形状も肥大化しているため、固定位置が合いません。
- デファレンシャル:S30はR180デフ、S31や2by2はR200デフが主流です。これらはフランジ形状やマウントメンバーが異なるため、デフ単体での交換はできません。ドライブシャフトやプロペラシャフトごとの交換が必要になります。
- スピードメーター:ワイヤーの取り付け口や裏側の配線カプラー形状が年式によって異なります。
中古車相場の動向と価格高騰の現状

現在の中古車市場において、S30とS31の相場には、依然として開きがあります。これには「投機的な価値」と「実用的な価値」のバランスが関係しています。
まず、S30(特に初期型や432、240Z)は、「伝説のスポーツカー」としてのブランド価値が極まり、投機対象としても見られています。フルオリジナルの極上車であれば1,000万円を軽く超えることも珍しくありません。もはや美術品のような扱いです。
一方、S31はかつて「不人気な後期型」「排ガス対策車」として、S30の半値以下で取引されることもありました。しかし、S30の枯渇と価格高騰に伴い、ここ数年で再評価が急激に進んでいます。
「S30は高すぎて買えないが、Zのスタイルは欲しい」という層や、「むしろ剛性が高くて乗りやすいS31が良い」という通な層からの需要が増え、2020年代中盤現在の中古車市場では、状態の良いS31であれば、500万円〜800万円クラスで取引されることもあります。
「安いから妥協してS31」という時代は終わりつつあり、「あえて実用的なS31を選ぶ」というポジティブな選択肢として価値が見直されているのです。なお、相場は今後も変動する可能性があるため、具体的な金額感は執筆時点の目安と捉えてください。
EGI車の維持費とトラブル事例の傾向
S31を維持する上で覚悟が必要なのが、昭和50年代初期の電子制御特有のトラブルです。S30のキャブレターなら、ドライバー一本で調整したり、ジェット類を交換したりとアナログな整備が可能ですが、S31のEGIシステムはそうはいきません。
ブラックボックス化した部品たち
L20Eエンジンの制御を司る「エアフロメーター」「スロットルポジションセンサー」「水温センサー」、そして「ECU(コンピューター)」などの電子部品。これらは製造から40年以上が経過し、寿命を迎えているものがほとんどです。基盤のハンダ割れや摩耗による接触不良が原因で、アイドリング不調やエンジストールを引き起こすことがあります。
最大の問題は、これらの純正部品の多くがすでに製廃(製造廃止)になっていることです。中古パーツも高騰しており、良品を見つけるのは至難の業です。
そのため、S31に乗るなら、電装系に強い主治医(ショップ)を見つけるか、現代のフルコン(MoTeCやHaltech、Linkなど)を使って制御系を現代化する「アップデート」の予算も見ておく必要があります。これは維持費を考える上で非常に重要なポイントです。
購入前に確認すべき車体の腐食ポイント
これはS30にも共通しますが、購入前のチェックで最も重要なのはエンジンでも内装でもなく、「ボディのサビ」です。S31はS30に比べて多少防錆処理が進んでいるとは言われますが、現代の基準から見れば無いに等しいレベルです。
ここが腐っていたら要注意!
- フレームレール:車体の背骨です。ここが腐って穴が開いていると、車検に通らないどころか走行中に折れる危険性があります。
- バッテリー下のパネル:バッテリー液が漏れて下の鉄板を腐らせ、その下のインナーフェンダー、さらには室内へとサビが進行しているケースが多発しています。
- リアハッチの開口部とスペアタイヤハウス:ウェザーストリップの劣化で雨水が浸入し、見えないところでサビが進行しがちです。
外装がオールペンされてピカピカでも、カーペットをめくったらフロアが錆で抜けて地面が見えていた…なんて話は旧車界隈では怪談のように語られます。購入時は必ずリフトアップして、下回りのコンディションを目視確認させてもらうことを強くお勧めします。
フェアレディZS30・S31の違いにつてよくある質問(FAQ)
最後に、フェアレディZS30やS31を検討している方からよく寄せられる質問に、マコトが本音で回答します。
Q1. S31の排ガス装置(NAPS)を外してキャブ化しても車検は通りますか?
A. 法的にはハードルが非常に高いと考えてください。
S31は「昭和51年排出ガス規制」という厳しい基準で型式認定を受けている車両です。そのため、本来備わっているインジェクションや触媒などの排ガス対策装置を外してキャブレター(ソレックスなど)に変更する行為は、原則として違法改造に該当します。
どうしても合法的にキャブ化したい場合は、「元の51年規制と同等の排出ガス性能を満たしている」ことを証明する必要があり、個別の排出ガス試験(いわゆるガス検)や改造自動車の審査が求められるケースもあります。試験費用やセッティング費用は高額になりやすく、数十万円〜それ以上になることも覚悟しなければなりません。
「昔は何となく通っていた」という話が出ることもありますが、現在はコンプライアンスが厳格化され、違法改造車に対する取り締まりも強化されています。S31をキャブ化する場合は、プロショップとよく相談し、法的なリスクとコストを十分に理解したうえで検討してください。
Q2. 2シーターと「2by2(4人乗り)」で、S30/S31の違いはありますか?
A. 基本的な変更点は同じですが、ボディ外板などの互換性はかなり限られます。
S30/S31ともに、ホイールベースを延長した4人乗りモデル「2by2(GS30/GS31)」が存在します。排ガス規制やエンジンの変遷そのものは2シーターと同じ流れで、年式による違いもほぼ共通です。
ただし、2by2はリアシートのスペースを確保するためにホイールベースが約300mm延長されており、ドアの長さ、ルーフライン、リアクォーターガラスの形状、リア周りの外板パネルなど、ボディシェルまわりは専用設計となっています。そのため、外装パーツ(ドアやウェザーストリップ、リアガラスなど)は2シーター用と共通でないものが多く、レストア時の部品調達は2by2の方が難しい場合があります。
市場価値としては2シーターの方が圧倒的に高値ですが、近年は「家族で乗れるZ」「ロングツーリング向き」として2by2(特にS31の2by2)の実用性が見直され、じわじわと人気が出てきています。
Q3. 結局、S30とS31、どちらが速いのですか?
A. 「体感の速さ」ならS30、「実用域の速さ」ならS31です。
S30(特に初期)は車重が軽いため、信号ダッシュや低速コーナーでの身のこなしが軽く、アクセルに対する反応も鋭いので「速い!」と直感的に感じます。キャブレター特有のダイレクトなレスポンスも相まって、スリリングな加速感を味わえます。
一方、S31は車重こそ増えていますが、ボディ剛性が高く足回りも見直されているため、高速道路での巡航速度域や荒れた路面でのトラクション性能に優れています。カタログスペック(最高速度など)に大差はありませんが、「スリルを楽しむS30」か「安定感を楽しむS31」か、速さの質が異なると理解してもらうのが良いと思います。
Q4. 部品が出なくて困るのはどちらですか?
A. エンジンまわりだけを見ると、S31の方が苦労する可能性があります。
意外かもしれませんが、キャブ車のS30は構造が単純で、世界中にオーナーが多いこともあり、社外品のリプロパーツ(復刻部品)やチューニングパーツが豊富に流通しています。SUキャブのオーバーホールキットや燃料系・点火系のリプレイス品なども各種ショップが扱っており、「何とかなる」ことが多いのが実情です。
対してS31のL20Eエンジンに使われている電子部品(エアフロメーター、ECU、各種センサー類)は、精密機器ゆえに寿命の個体も多く、純正新品はすでに廃盤になっているものがほとんどです。中古品や他車種流用、専門店のリビルトパーツに頼るケースが多くなり、トラブルが出た際に「完調な状態」まで戻すのは簡単ではありません。
そのため、S31を購入する際は、電装系・インジェクション系のコンディションをきちんと診てくれるショップが身近にあるか、ある程度の電装トラブルに付き合う覚悟と予算が用意できるかが、大きなポイントになります。
フェアレディZのS30とS31の違いを総括
ここまでS30とS31の違いを深掘りしてきましたが、いかがでしたでしょうか。どちらも「フェアレディZ」という同じ名前を持ちながら、全く異なる個性と使命を持った車であることがお分かりいただけたかと思います。
- S30(前期)を選びたい人:内燃機関が最も自由だった時代の「野生」や「純度」を楽しみたい人。不便さや手のかかる部分さえも愛し、機械と対話できるなら最高の相棒になります。
- S31(後期)を選びたい人:環境規制という壁を技術で乗り越えた「知性」と「進化」を味わいたい人。快適性とボディ剛性を備え、現代の路上で長く、美しく付き合える実用的な旧車を求めるならS31です。
もしあなたがこれからZの世界に飛び込むなら、「S30が高くて買えないから仕方なくS31にする」と考えるのはやめましょう。
S31を選び、当時のエンジニアたちが苦心して作り上げたNAPSやEGIシステムを維持して走らせることは、自動車文化に対する最大限の敬意であり、とても粋で知的な楽しみ方だと私は思います。
ぜひ、あなたのライフスタイルや価値観に合った、運命の一台を見つけてくださいね。