こんにちは。「classicfrontier」の「マコト」です。
初代フェアレディZ、かっこいいですよね。その流麗なロングノーズ・ショートデッキのスタイリングは、半世紀以上が経過した今でも色褪せることなく、むしろ現代の車にはない強烈なオーラを放っています。
これからこの名車を購入しようと考えている方や、いつかはオーナーになりたいと夢見ている方、あるいはレストアベースを探している方の中には、「240ZとS30Zの違い」について、もっと深く、マニアックなレベルで知りたいという方も多いのではないでしょうか。
一見すると同じボディに見えるこの2台ですが、実は搭載されているエンジンの出自や、開発された背景、そして何よりステアリングを握った時に感じる「鼓動」の種類がまったく異なります。
「どちらが速いか」という単純なスペック競争ではなく、「どちらが自分のドライビングスタイルや人生観に合っているか」を知ることが、後悔しない選び方の第一歩です。
今回は、カタログスペックだけでは分からない、それぞれの特徴や見分け方、そしてオーナーだからこそ分かる「味」の違いについて、私なりの視点で徹底的に解説していきたいと思います。
あなたは今、こんなことで悩んでいませんか?
- ✅ 240ZとS30Z、見た目は同じに見えるけど中身や乗り味はどう具体的に違うの?
- ✅ L20型エンジンとL24型エンジン、日本の道路事情で本当に楽しいのはどっち?
- ✅ 北米仕様や240ZGなど、種類が多すぎて、それぞれの希少価値や特徴が整理できない
- ✅ 自分の走り方(峠メインか、ツーリングメインか)に合ったモデルを見極めたい
もし一つでも当てはまったなら、この記事があなたの疑問をすべて解決します。
240ZとS30Zの違いはエンジンの性格
この2台を比較する際、最大の違いであり、かつ最も議論が分かれるのが「エンジン」です。日本の税制という枠の中で技術者たちが情熱を注いで磨き上げた、精密機械のような2.0Lモデル。
そして、広大なアメリカ大陸をストレスなく走り抜けるために、余裕とトルクを与えられた2.4Lモデル。排気量の差はわずか400ccですが、その性格はまるで「短距離アスリート」と「長距離ランナー」ほど異なります。ここでは、それぞれのエンジンが生み出すフィーリングの差について深掘りしていきましょう。

S30型の排気量とL20エンジンの高回転
日本国内で一般的に「S30Z」や「Z-L」と呼ばれるモデルの多くは、直列6気筒OHCのL20型エンジン(1,998cc)を搭載しています。なぜ2.0Lだったのかと言えば、当時の日本の自動車税制の影響が色濃く反映されています。
2000ccを超えると税金が跳ね上がる「3ナンバー」扱いとなるため、国内市場の主力はどうしても5ナンバー枠に収まる2.0Lにならざるを得ませんでした。
しかし、この「制約」があったからこそ、L20というエンジンの個性が磨かれたとも言えます。ボア78.0mm×ストローク69.7mmという、ショートストローク気味のスクエアな設計は、高回転域でのレスポンスを重視したものです。カタログスペック上の最高出力は130ps/6000rpm、最大トルクは17.5kgm/4400rpm。
実際に乗ってみると、このエンジンの真骨頂は4000回転を超えたあたりから始まります。アクセルを踏み込むと、「クォーン」というL型特有の乾いた金属音と共に、タコメーターの針が跳ね上がるようにレッドゾーンへ向かって駆け上がります。

絶対的なパワーやトルクは現代の車には遠く及びませんが、シフトノブを操り、パワーバンドを外さないようにエンジンを「回して絞り出す」感覚は、まさにスポーツカーの原点です。
特に、純正のSUツインキャブレターが吸気する音と、メカニカルノイズが混ざり合ったサウンドは、ドライバーのアドレナリンを刺激します。低回転では少し線の細さを感じるかもしれませんが、それを補うためにギアを選び、積極的にアクセルを踏んでいく。その能動的なドライビングこそが、S30(L20)の最大の魅力なのです。
🏁 L20 (S30Z) のサウンドイメージ
ヴォォォーークォォォォーン!!
(4000回転から突き抜ける金属的な高音)
🇺🇸 L24 (240Z) のサウンドイメージ
ドゥルルルル…グォォォォ…
(腹に響く野太いトルクと排気音)
当時の日産自動車のデータを見ても、車両重量が1トンを切る(初期型Z-Lで約995kg)という驚異的な軽さに、ビュンビュン回るエンジンの組み合わせは、日本の狭く曲がりくねった峠道にはまさにベストマッチだったと言えますね。軽さは最大の武器です。(出典:日産ヘリテージコレクション「フェアレディ Z-L」)
240Zの馬力とL24エンジンのトルク特性
一方で「240Z」は、その名の通り2.4LのL24型エンジン(2,393cc)を搭載しています。この車はもともと、北米市場(ダットサン 240Z)で欧州製スポーツカーに対抗するために開発されました。
信号が少なく、フリーウェイでの長距離移動が当たり前のアメリカでは、高回転をキープして走るよりも、余裕のあるトルクでゆったりと、かつ力強く走る性能が求められます。
L24エンジンのボアは83.0mm、ストロークは73.7mm。L20に比べてボアもストロークも拡大されており、最高出力は150ps/5600rpm、最大トルクは21.0kgm/4800rpmを発生します。数値以上に体感できるのが、低中速域での「トルクの厚み」です。
発進直後、2000回転も回っていれば、アクセルを軽く踏み足すだけで車体がグイッと前に押し出されます。L20のように必死にシフトダウンしなくても、トップギアのままズボラに加速できてしまう懐の深さがあります。これは、長時間のドライブでも疲労が少ないという大きなメリットに繋がります。

日本国内でも1971年11月に「フェアレディ240Z」として追加販売されましたが、そのキャラクターは「回すスポーツカー」というよりは、大排気量の余裕を楽しむ「グランドツーリングカー(GT)」としての性格が強いです。
もちろん、踏めば速いのですが、エンジンの回転フィールはL20よりも少し荒々しく、豪快な印象を受けます。アメリカの広大な大地が生んだ、頼れる相棒といった雰囲気ですね。
型式で整理する国内仕様と輸出仕様
旧車の世界では、車種を特定するために「型式」が非常に重要になります。しかし、S30系に関しては、通称と型式が入り混じって会話されることが多く、初心者の方が混乱しやすいポイントでもあります。ここで一度、明確に整理しておきましょう。
覚えるべき基本ルールは以下の3点です。
- 「S30」:初代フェアレディZ全体を指すコードネームとしても使われ、国内2.0L系の型式としても登場します。
- 「HS30」:頭に「H」がつくとL24エンジン(2.4L)搭載車=国内240Z系を示す型式として扱われます。
- 「L」が入る場合:「HLS30」のように「L」が入ると、左ハンドル(Left hand drive)の輸出仕様を指します。

これを踏まえて、主要なモデルを以下の表にまとめました。これから中古車を探す際は、プライスボードの車名だけでなく、車検証上の「型式」にも注目してみてください。
| 通称・グレード | 主な型式 | エンジン | 特徴・備考 |
|---|---|---|---|
| フェアレディZ / Z-L | S30 / GS30 | L20 (2.0L) | 国内の主力モデル。最もタマ数が多い。「G」がつくと2by2(4人乗り)。 |
| フェアレディ240Z | HS30 | L24 (2.4L) | 1971年11月に国内追加。Gノーズ無しの標準ノーズ仕様も存在する。 |
| フェアレディ240ZG | HS30H | L24 (2.4L) | Gノーズ、オバフェン標準装備。HS30Hは240ZGの型式コードとして押さえるのが確実。 |
| Datsun 240Z (北米) | HLS30 | L24 (2.4L) | 左ハンドルが基本。北米での爆発的ヒットモデル。装備や法規対応が国内版と異なる。 |
| フェアレディZ432 | PS30 | S20 (2.0L) | スカイラインGT-Rと同系統のDOHCエンジン搭載。「Z432」は“4バルブ・3キャブ・2カム”に由来。 |
このように、型式という記号を読み解くことで、その車が本来どのような仕様で生まれたのか(あるいは後からエンジンを載せ替えたのか)をある程度推測することができます。「S30改」などの記載がある場合は、エンジン変更や公認改造が行われている可能性があるため、より詳細なチェックが必要です。
外観での見分け方とデザインの特徴
「ロングノーズ・ショートデッキ」という基本プロポーションは共通ですが、仕向け地やグレードによって、外観には明確な違いが存在します。
これらのディテールは、単なるデザインの違いというだけでなく、当時の法規制や空気力学への挑戦の歴史そのものです。ここでは、街中で見かけた時や、購入検討時に役立つ「識別ポイント」をマニアックに解説します。

240ZGのGノーズとオーバーフェンダー
240ZとS30Zの違いを語る上で、絶対に避けて通れないのが、日本国内専用の最上級グレード「フェアレディ240ZG」の存在です。このモデルの最大の特徴は、フロントバンパーと一体化した流線型のノーズピース、通称「Gノーズ(エアロダイナ・ノーズ)」です。
このGノーズは、単なる飾りではありません。ノーズ形状を延長・整形し、ヘッドライトカバーやオーバーフェンダーと組み合わせることで、空気抵抗低減を狙った機能部品でもあります。
日産ヘリテージコレクションの解説によると、240ZGの空気抵抗係数(Cd値)は0.390、最高速度は210km/hに到達したとされています。(出典:日産ヘリテージコレクション「フェアレディ240ZG」)
さらに、当時のタイヤ性能をカバーするためにワイドタイヤを履けるよう、リベット留めのFRP製オーバーフェンダーが標準装備されています。
この「Gノーズ+オーバーフェンダー」の組み合わせこそが、ZGをZGたらしめるアイデンティティです。マルーン(栗色)のボディカラーを纏った240ZGの姿は、今見ても妖艶で圧倒的な存在感があります。「鼻が長いか、短いか」、これが240ZGを見分ける最初の一歩です。
北米バンパーやテールの判別ポイント
次に、輸出仕様である「ダットサン240Z(北米仕様)」と国内仕様を見分けるポイントです。ここでキーワードとなるのが、アメリカの安全基準(FMVSS)です。
まず一番分かりやすいのが「サイドマーカー」です。北米では、夜間の視認性を高めるために、フロントフェンダーにオレンジ、リアクォーターにレッドの反射板付きマーカーライトの装着が義務付けられています。
国内仕様にはこれがありません(※後にアクセサリーとして装着された個体も多いですが、オリジナルではありません)。
次に「リアコンビネーションランプ」です。国内仕様のテールランプは、ウインカー部分が独立してアンバー(オレンジ色)に光ります。一方で北米仕様は、年式や州法規の影響もあり、ウインカーが赤で点滅する仕様(ブレーキランプ兼用)になっている個体が見られます(年式・仕様差あり)。
そして話題になりやすいのが「バンパー」です。米国では1973年型相当の時期からFMVSS 215(低速バリア衝突で安全関連部品の機能損傷を抑える趣旨)が効き始め、バンパーまわりの設計思想が変わっていきます。
いわゆる「巨大なエネルギー吸収バンパー」というイメージは、主に260Z/280Z期の流れとして語られることが多く、ここは“240Z末期〜次世代での変化”として押さえておくのが分かりやすいです。
現在日本国内を走っている左ハンドルのZは、このUS仕様のバンパーを取り外して、スッキリした国内仕様風のバンパーに交換されているケースも非常に多いです。オリジナル重視か、スタイル重視か、オーナーの哲学が出る部分ですね。
内装やステアリング位置の違いを確認
外観だけでなく、ドアを開けた瞬間にも違いは歴然としています。当然ながら、北米仕様のダットサン240Zは左ハンドルです。これに伴い、ダッシュボードの造形も左右反転しています。
運転席に座ってまず目に入るのが、特徴的な3連メーターです。ここで注目したいのが表記の単位。
国内仕様のスピードメーターが「km/h」表記であるのに対し、北米仕様は「mph(マイル)」表記がメインとなり、内側に小さくkmが表示されるタイプが一般的です。また、油圧計(lb/sq in)や水温計(Fahrenheit)の単位も現地の慣習に合わせたものになっています。
細かい点では、シートベルトの警告灯の位置やデザイン、ハザードスイッチの形状、ラジオの周波数帯なども異なります。
また、北米の強烈な日差しに長年さらされてきた個体は、ダッシュボードの上部が見事に割れてしまっていることが多く、これは「ダッシュ割れ」として北米帰りの中古車によく見られるウィークポイントでもあります(現在はリペアキットやダッシュカバーも流通しています)。
もし「Fairlady 240Z」というエンブレムが付いているのに右ハンドルであれば、それは希少な国内正規販売モデルか、あるいはS30Z(2.0L)をベースにエンブレムチューンを施した車両のどちらかである可能性が高いです。車体番号を確認すれば確実ですが、ステアリング位置は最も基本的な識別点と言えます。
前期と後期で変わる細部の見分け方
「240Z」と一口に言っても、1969年のデビューから1973年まで生産されており、年式によって細部の仕様が異なります。特に世界中のコレクターが血眼になって探しているのが、1969年〜1971年ごろの早期仕様を指して語られることが多い「Series 1(シリーズ1)」です。
Series 1を見分ける有名なポイントは以下の2点です。
- 240Zバッジの位置: 早期仕様ではCピラー(サイルパネル)に「240Z」バッジが付く個体が知られています。
- リアゲートのベンチレーション: 早期仕様ではリアガラス下のハッチ部分に2本の横長ベントがあり、のちに廃止されボディ側へ移る流れが語られます。
このほかにも、内外装の細部違いが多岐にわたります。こうした早期仕様特有のディテールが残っている個体は、「オリジナル度」が高いと評価され、市場価値も上がりやすい傾向にあります。
走り屋視点で選ぶならどちらが正解か
スペックの数値や外観の希少性も大切ですが、私たち車好きにとって最も重要なのは、「ステアリングを握って走り出した瞬間に、心が震えるかどうか」ではないでしょうか。
峠を攻めるのが生き甲斐なのか、それとも高速道路を流して旅をするのが目的なのか。あなたのドライビングスタイルに合わせて、L20とL24、どちらを選ぶべきか、走り屋視点でシミュレーションしてみましょう。

峠のワインディングで光るL20の魅力
もしあなたが、週末の早朝に箱根や伊豆などのタイトなコーナーが続く峠道を走るのが好きなら、私は迷わずL20エンジンを搭載したS30Z(特に軽量な初期のZ-Lなど)をおすすめします。
確かに絶対的なパワーはありません。上り坂では少しもどかしさを感じることもあるでしょう。しかし、1トンを切る軽量ボディと、高回転型のエンジンの相性は抜群です。
コーナーの手前でヒール&トゥを駆使してシフトダウンし、エンジン回転数を4000以上に保ちながらコーナーをクリアしていく。その一連の操作に対する車の反応が、L20は非常にリニアで軽快なのです。
また、L型エンジン特有の「音」に関しても、L20の方がピストンなどのムービングパーツが軽いためか、高回転域でより甲高く、澄んだ音を奏でる傾向があります。
ソレックスやウェーバーといった社外キャブレターに換装し、タコ足を組んだ時の吸排気音は、まさに楽器のようです。「速さ」ではなく、車を自分の手足のように「操る楽しさ」や「征服感」を求めるなら、L20は最高のパートナーになるはずです。
高速巡航で余裕を見せるL24の実力
一方で、あなたの使い方がロングツーリングや、高速道路を使った長距離移動がメインなら、240Z(L24)の圧勝と言わざるを得ません。この車の魅力は、何と言ってもその「余裕」にあります。
時速100kmでの巡航時、L20ではそれなりの回転数を維持する必要がありますが、L24なら回転数を抑えて静かに流すことができます。
そして、いざ追い越しをかけたい時も、シフトダウンをせずにアクセルを踏み込むだけで、太いトルクが車体をスルスルと加速させてくれます。このストレスのなさは、長距離を走れば走るほど、疲労感の差となって現れます。
また、直進安定性に関しても、重量バランスや足回りのセッティングの影響か、240Zの方がどっしりとした安定感を感じることが多いです。広大なアメリカ大陸を横断するために生まれたGTカーとしての資質は伊達ではありません。
助手席にパートナーを乗せて、会話を楽しみながら優雅に旅をする。そんな大人の使い方が似合うのは、間違いなく240Zです。
「余裕」という言葉がこれほど似合うスポーツカーも珍しいです。カリカリに攻めるのではなく、豊かなトルクに身を委ねる。大排気量ならではの懐の深さを味わいたいなら、240Zを選んで間違いありません。
中古車相場と維持費のリアルな事情
夢のある話をしてきましたが、現実はシビアな「お金」の問題も避けて通れません。現在、S30系Zの中古車相場は世界的に高騰していますが、その中でもグレードによる格差は広がっています。
まず、国内正規の「240ZG」や、S20エンジンを積んだ「Z432」は、もはや投機対象のような価格になっており、一般的なファンが手を出せる領域を超えつつあります。これらは「文化財」を所有する覚悟が必要です。
一方、2.0LのS30Zや、北米から逆輸入された左ハンドルの240Zは、まだ比較的流通量がありますが、それでも状態の良い個体は年々価格が上昇しています。ここで注意したいのが、「車両価格」だけでなく「維持費(レストア費)」です。
どちらのモデルを選ぶにせよ、製造から50年が経過した車です。エンジンやミッションは頑丈で部品も出ますが、最大の敵は「ボディの錆(サビ)」です。
特にフレームレール、フロアパネル、バッテリー下のトレイ、リアハッチの開口部などは、必ず腐食していると思ってチェックしてください。

安く買えたと思っても、板金修理で数百万円飛んでいくことも珍しくありません。エンジン形式にこだわる前に、「ボディがしっかりしているか」を最優先に見ることが、結果的に維持費を抑えるコツです。(参考:S30/S31の腐食ポイント解説)
「とりあえず動くから」と飛びつくのは危険です。購入後のレストア費用として、車両価格とは別にまとまった予算(最低でも100〜200万円程度)を確保しておくことを強くおすすめします。
燃費よりも官能性能で選ぶべき理由
最後に、これから旧車に乗ろうとしているあなたに伝えたいことがあります。それは、「燃費や利便性といった現代のモノサシで測ってはいけない」ということです。
正直なところ、燃費は現代のエコカーには遠く及びません。夏場はオーバーヒートを気にする必要がありますし、キャブレター車ならではの儀式(暖気運転など)も必要です。
エアコンも効かないかもしれません。しかし、そうした不便さをすべて帳消しにして、お釣りが来るほどの魅力がこの車にはあります。
キーを捻り、セルモーターが回り、エンジンが目覚めた瞬間の振動。ガソリンとオイルが混ざり合った独特の匂い。重たいステアリングから伝わってくる路面のインフォメーション。これらは数値には表れない「官能性能」です。
L20の突き抜けるような高音に酔いしれたいのか、L24の腹に響くようなトルク感に身を委ねたいのか。どちらが優れているかではなく、どちらの「味」が自分の感性に響くかで選んでみてください。どちらを選んでも、現代の電子制御された車では絶対に味わえない、濃密で人間臭いドライビング体験があなたを待っています。
購入前に知っておきたい!240ZとS30Zに関するQ&A
ここまで解説してきましたが、いざ購入となると、まだまだ不安な点があるかと思います。ここでは、私が実際によく聞かれる「これからオーナーになる人が気にするポイント」をQ&A形式でまとめてみました。少しマニアックですが、知っておくとショップでの会話もスムーズになりますよ。
Q. 日産が「ヘリテージパーツ」として部品を再生産しているって本当ですか?
A. 「取り組み自体は本当」ですが、S30が“新品で何でも揃う”と断言するのは注意が必要です。
日産/ニスモにはヘリテージカー向けに交換部品を供給する取り組みがあり、NISMO公式サイト上では少なくとも第二世代GT-R向けの補修部品が明示されています。S30については、純正供給が残っている部品・リプロダクション部品・専門店ルートなどを組み合わせて維持していくのが現実的です。まずは「何が新品で出るのか」を車種別に確認し、出ない部品はリビルトや社外品も視野に入れるのが失敗しないコツです。(参考:NISMO Heritage Parts)
Q. 240Zに「L28エンジン」を載せ替えた車両を見かけますが、これは買いですか?
A. 「公認」が取れているかどうかが最大の鍵です。
S30Zや240Zに、より排気量の大きいL28型(2.8L)エンジンを載せ替えるチューニングは定番です。トルクが増して非常に乗りやすくなりますが、必ず車検証の型式欄や備考欄などで公認改造の扱いになっているかを確認してください。公認が取れていないと、車検に通らないだけでなく、保険の適用外になるリスクもあります。オリジナルにこだわらないのであれば、L28公認車両は「走りの楽しさ」という点では非常に魅力的な選択肢です。
Q. 初心者が買うなら、結局L20とL24、どちらが壊れにくいですか?
A. エンジン本体の耐久性はどちらも頑丈で、大差ありません。
L型エンジンはもともと非常にタフな設計です。壊れる原因の多くはエンジン内部ではなく、周辺の補機類(オルタネーター、スターター、キャブレターの不調など)や、電気配線の劣化です。ですので、「どちらのエンジンか」よりも、「前のオーナーがどれだけメンテナンスにお金をかけていたか」の方が重要です。整備記録簿がしっかり残っている個体を選ぶのが、結果的に一番の近道になりますよ。
240ZとS30Zの違いを理解して選ぶ
長くなりましたが、これまでの内容をまとめます。240ZとS30Z、それぞれのキャラクターを正しく理解して、あなたにとって最高の一台を見つけてください。
- S30Z(L20)は、日本の峠道が生んだ「回してパワーを絞り出す」操る楽しさに特化したモデル。
- 240Z(L24)は、アメリカの道が生んだ「低回転からの太いトルク」で余裕を持って走るGTカー。
- 「240ZG」はGノーズとオバフェンが特徴の、日本専用グレードとして別格の存在。
- 北米仕様はサイドマーカーやバンパーなど、安全基準に合わせた外観の差異があり、左ハンドルが基本。
- 最終的には、タイトなコーナーで汗をかきたいか、ロングドライブを優雅に楽しみたいかという自分のスタイルで選ぶのが正解。
もしあなたが、これから実車を見に行く予定があるなら、ぜひ遠慮せずにボンネットを開けてエンジンルームを覗き込んでみてください。そしてショップの方にお願いして、エンジンをかけさせてもらい、可能なら助手席でもいいのでその「音」と「振動」を体感してみてください。
理屈やスペックではなく、五感で感じた時に「こっちだ!」と直感が告げる瞬間が必ず来るはずです。その直感こそが、あなたと愛車の運命の出会いです。あなたにとって最高の一台と巡り会えることを、心から応援しています!